最高裁判所第一小法廷 昭和43年(あ)2655号 決定 1969年6月05日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人上田正博の上告趣意について。
いわゆる常習累犯窃盗の罪を規定した盗犯等の防止及び処分に関する法律三条は、窃盗その他同法二条所定の罪を行う習癖を有する者を、その習癖のない者より重く処罰するため、通常の窃盗その他の罪とは異なる新たな犯罪類型を定めたものであって、刑法所定の累犯のゆえに法定刑を加重したものではなく、また、右累犯による加重を排除する趣旨を含むものでもない。
もし、同法三条所定のいわゆる常習累犯窃盗の罪を犯した者に対して、刑法所定の累犯加重の要件がそなわっているのに、累犯加重の規定が適用されないとすれば、その者に対しては、三年以上一五年以下の懲役刑によって処断することとなり、その処断刑の上限は、通常の窃盗罪に対し累犯加重をしたときの処断刑の上限である懲役二〇年に及ばないこととなる。してみれば前示窃盗等の罪を行う習癖のある者を、その習癖のない者より重く処罰しようとした盗犯等の防止及び処分に関する法律三条の趣旨に反する結果となる。したがって、いわゆる常習累犯窃盗の罪についても刑法の累犯加重の規定の適用があること当然であり、このことは、他の刑法所定の罪に累犯加重をするのと何ら異なるところはない。
そうとすれば、いわゆる常習累犯窃盗の罪に刑法所定の累犯加重をすることは、所論のように盗犯等の防止及び処分に関する法律において、累犯あるものとして加重されているのに、更に刑法による累犯加重をするものではないから、所論違憲(憲法三九条後段違反)の主張は、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。
よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 松田二郎 裁判官 入江俊郎 裁判官 長部謹吾 裁判官 岩田 誠 裁判官 大隅健一郎)